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ソフトウェア開発技術者の人材育成

ソフトウェア開発技術者の人材育成 その1


古賀詳二
An approach to education for system engineers
Shoji Koga
キーワード:35歳定年説,心の教育,米百俵,資格,ITスキル標準

1.はじめに

 2000年3月にソフトウェア開発会社を設立した。人材育成することが企業規模を拡大でき、また雇用・経営の安定に繋がり、さらに社会貢献できることを信念に経営してきた。人材育成の結果、創業から6年間(平成18年3月期まで)で売上11倍、全期黒字決算となり、社員も6名からスタートしたが、100人を超える企業に成長できた。私の取り組んできたソフトウェア開発技術者の人材育成方法をここに紹介する。

2.開発技術者を取り巻く厳しい環境

 ICT(Information and Communication Technology)にはたくさんの可能性があり、また大きな期待を寄せられている。しかし、ICTの中核を担っている多くのソフトウェア開発技術者は将来に対して大きな不安を持っている現状がある。
a)IT(Information Technology)革命と言われるように技術革新の勢いは止まらない。しかし、IT革命を支える技術者が新しい技術を取得するのは容易ではない。それがSE(System Engineer)やPG(Programmer)の35歳定年説の神話を作った。
b)昔からこの業界が3K(きつい、帰れない、給与が安い)と言われるように長時間労働による心身の病気に悩む技術者が多い。
c) 中国・インドなどの発展途上国のIT技術者の台頭により、低賃金のオフショアが加速して、景気が回復しているにも関わらず中小ソフトウェア会社の経営者は頭を抱え、ソフトウェア技術者の賃金は抑制されている。

2.1 日進月歩の技術革新

コンピュータが誕生してから半世紀以上が経ったが、絶え間ない技術革新により性能の向上とダウンサイジングを常に繰り返してきた。同時にコンピュータ上で動作するソフトウェアの開発も常に技術革新の波に曝されてきた。
ダウンサイジングや標準化の潮流に乗り、メインフレームからオープンシステムへと主流が傾いてからその傾向は特に顕著となり、年々その勢いは加速している。
以下に代表的な変化を記述する。

a)専用端末 → PC端末、ブラウザ/リッチクライアント
b)専用ネットワーク → LAN/インターネット
c)一極集中処理 → 多階層/分散処理(Webシステムなど)
d)単一ベンダー環境 → マルチベンダー環境/オープンソースの利用
e)手続き型言語 → オブジェクト指向言語/スクリプト言語

 さらに数え上げればきりがないが、小さな進化は目まぐるしく毎日のように起こっている。
これらの急速な変化に対し、技術者はOS/開発言語/開発手法に対応する必要がある。しかし、技術革新のスピードは早く、技術者が1つの技術に熟達する頃は、既に新たな技術が主流になっているという状況も珍しくない。日進月歩の技術革新に取り残されないように知識の取得をしなければならない。このような背景から努力を忘れた技術者に対して35歳定年説が生まれたのである。

2.2 過労労働

 コンピュータシステム開発は非常に難しい。なぜなら、膨大なコンピュータの知識はさることながら、開発する業種の専門的な知識も必要である。システムエンジニアはあらゆる種類(ハードウェア、オペレーティングシステム、ネットワーク、データベース、言語、アプリケーション処理方式など)のコンピュータに関する知識を持っている必要がある。また、ターゲットとなる業務の知識を持っている必要もある。しかし、コンピュータに関する深い知識と開発する業務に関する深い知識の双方を保有している天才などはどこにもいない。
一般的にシステムを開発する場合、ターゲットとなるシステムの要件はユーザ側が作成し、基本設計はユーザ(発注者)側とシステムエンジニア側が共同で作成する場合が多い。ユーザ側はコンピュータシステムの知識に乏しい、逆にシステムエンジニアなどは業務知識に乏しい。ユーザやシステムエンジニアは相手側の知識に乏しいことで開発システムの全体像を十二分に把握できないことが多い。
現実にトラブルの発生しているシステム開発は@計画がいい加減、A開発プロセスが明確でない、Bプロジェクト管理がなされていない、Cドキュメンテーションが不十分、D作業標準がない、E適材適所の組織になっていない、などの原因となっている。システム開発が不順すると、開発作業の手戻りが多くなり、開発作業が遅れる。そうすると作業担当者の負荷が増大し、深夜作業、休日出勤が多くなる。このようなことは日常茶飯事である。長時間の労働が心身の健康を害する要因となっている。これが3K業種と呼ばれる所以である。

2.3 オフショア

IT業界においてメジャーなソフトウェア開発手法として定着してきたオフショア開発。オフショアとは商業英語で国外、域外という意味。その定義どおり、コーディングなどソフト開発の一部工程を人件費の安いインド、中国、東南アジアなどの海外ソフトハウスに外注し、コスト競争力を高めようという手法である。
2003年の情報サービス産業の売上高は14兆1706億円と9年連続で増加している。また、2003年の情報サービス産業の就業者は56万7467人である。1997年から1998年の1年間にこの産業界の就業者は大きく増加しているがそれ以降は微増または微減に推移している。しかしながら、中国籍、韓国籍、インド籍等の外国人技術者が大幅に増加している状況であり、また大手SIer(System Integrater)はプログラム製造工程を単価の安い国々に発注している。[1]
実際に、日本人技術者の1/3の単価でオフショア開発している話を取引企業から聞いている。オフショアしなくても良いように日本人技術者には生産性を上げて欲しいとの要望を聞いている。日本人技術者の単価の1/3〜1/5でオフショアできるから国内技術者の単価を下げているなどの業界の噂も聞いている。オフショア開発を楯に技術者の単価を下げるのは下請けの経営圧迫、技術者の生活水準の低下に伴う可能性がある。オフショアの単価は安いが、文化・商習慣の違いにより、品質や納期などのトラブルが多い影の実情も認識する必要がある。猫も杓子もIT技術者になっていることが品質・生産性の向上に繋がらないのも事実である。日本人技術者が高いスキルを保有すれば、双方に有益なオフショア開発が実現できることは間違いない。そのためにも抜本的な人材育成を考えなければならない。

3.業界の人材育成の現状と問題点

 情報処理サービス産業白書によると事業展開上での不足している人材はプロジェクトマネジメント、セールスエンジニア、コンサルタント、ITスペシャリストであると調査結果を報告している。不足している人材が高度な知識を有する技術者であることが伺える。この業界がコンピュータの歴史50年であることを考えると、経験豊富な技術者が高度な知識を保有していないことになる。
 人材拡充のために実践している取組みのアンケートでは@人材の質の向上の体系・施策を明確に定める、A人材確保の方針を定める、B体系的なキャリアパスを明確にする、C事業戦略に基づいた人材スキルを明確化する、順となっている。しかし、個人別スキル評価制度や事業戦略に基づいた明確な人材スキル、スキル評価に基づいた処遇制度といったものをまだ十分に策定・整備していない状況であるようだ。これは各IT企業が年功序列の人事制度から脱却できないことを窺わせる。
 人材育成の問題点についても報告している。人材教育の課題を見ると、@戦略的な人材教育ができていない、A業務が多忙であり教育に割く時間がない、B教育の効果がわかりづらい、C育成人材(指導員)が不足している、DOJT中心であるが現場に教育体制がない、との順で人材育成の課題を挙げている。
 IT業界での人材育成に各企業が悩んでいることやこの業界の人材育成の困難さを物語っている。次節以降で私の実践している人材育成を述べる。

4. 心の教育

 学校教育や企業は知識詰め込み型、専門家育成型の教育である。なぜ知識が必要なのか、なぜ専門家を育成しなければならないのかという根本思想がないことが知識を有効利用できなかったり、専門家が育成できなかったりする理由と考える。  当社の社員はすべて社会人経験のある中途採用である。異業種からの転職、定職をしないフリータからの就職、同業他社からの転職と様々な理由から入社する。自分の境遇についての不満や将来の生活に対する不安が多い。
 私は1人の採用面接時間に平均8時間を費やしている。彼らの根本的に抱えている問題点を聞き出し、根本的に対策を講じるように導く。そして、どのように考えていけばよいのかを教えている。

4.1 生命の法則

 私は採用面接で応募者に必ず質問する。「貴方はなぜ生きているのですか、貴方の人生の目的は何ですか」、そして「貴方の考える幸福」は何ですか。それに対して多くの若者は「今まで深く考えたことがありません、わかりません」と答える。人生の目的や幸福の定義が曖昧では困難な局面に遭遇すると、必ずその困難から逃げるような言動になる。恐怖、不安や後悔のある人生しか過ごすことができなくなるのは当然であると話す。迷いのない、不安と恐怖から開放させ、希望・挑戦・勇気を持てる人生を送るためには生命の法則に従って活きることが必要である。
 私が採用面接で必ず話している人生の目的は次のことである。
宇宙が誕生したのは今から137億年前、地球が誕生したのは46億年前、生命が誕生したのが38億年前です。貴方は両親から生まれました。その両親も貴方と同じように両親から生まれました。貴方の先祖は1千年前、1万年前、100万年前、5000万年前、4億年前、20億年前、そして、生命の誕生の38億年前にも必ず地球上のどこかに生存したのです。38億年という気が遠くなる時間を生物は繁栄と絶命を繰り返しながら、また進化しながら生命の継承がなされたのです。その結果、貴方がここに生きているのです。貴方は38億年間生きているのと同じです。貴方が今存在するのは天文学的な確率での奇跡です。生きることを大切にしてください。貴方の生きる目的は38億年間継承された生命を繋ぐ事にあります。貴方は命を繋ぐ駅伝ランナーと同じです。強い子孫を残すために何をすればよいかが人生の目標になります。学問すること、天職を見つけお金を稼ぐこと、恋人を見つけること、子供を産み育てることとさまざまなことを計画・実行して生きなければなりません。これが人生です。
つまり、人生の目的は強い子孫を残すための行動である。これが生きることの原理原則ではないのかと問う。企業や社会に役に立つことは必然に賃金が増え、必然的に生活が安定して、将来の不安も解消できることになる。常に企業や社会に役に立つ技術者になるためには、健康であることと向上心を持って学問していくことにある。その結果、希望、夢や勇気を持てる己を発見することができる。また、困難な局面に遭遇しても、問題の本質を掴み、対策を講じることができる。家庭を持つことは長期に安定した幸福感を持つことができ、また老後の心配も解消される。

4.2 米百俵の精神

 「米百俵」と言う言葉を聞いたことがありますかと質問する。あまり知られていないようだ。私はこの逸話に企業の人材育成の本質が隠されていると思う。米百俵の逸話を簡単に紹介する。  戊辰戦争後、焼土となった長岡の人々は極度の貧窮の中にあった。その状況を見かねて明治三年、お見舞いとして届けられたのが支藩・三根山藩からの米百俵であった。一日に三度のおかゆも満足に食べられずにいた藩士やその家族たちは、「これで腹いっぱいの米が食える」とうわさ話で持ち切りとなった。
 しかしその時の長岡藩大参事・小林虎三郎は、「食えないからこそ教育をせねばならない」と、その米を藩士に分配せずに換金し、学校設立のための資金とした。「この米を、一日か二日で食いつぶしてあとに何が残るのだ。国がおこるのも、ほろびるのも、まちが栄えるのも、衰えるのも、ことごとく人にある。……この百俵の米をもとにして、学校をたてたいのだ。この百俵は、今でこそただの百俵だが、後年には一万俵になるか、百万俵になるか、はかりしれないものがある。いや、米俵などでは、見つもれない尊いものになるのだ。その日暮らしでは、長岡は立ちあがれないぞ。あたらしい日本はうまれないぞ。……」と、虎三郎は反対する藩士に喝破し、説いた。[2]
 多くの企業は己の企業のみの利益に繋がるような人材育成しか考えていない。だから、人材が育たないと思える。人材の流動化を前提にした人材育成は国家・社会に利益をもたらし、回帰して自社にも利益をもたらす発想を持つ必要がある。
狭い範囲の組織体に依存して人生設計を考える技術者である前に自立できる人間を育てることが企業の使命であると考える。私は社員に自立できるように資格を取らせ、思いやりを持つ人間になるように相手の立場を考えることや社外活動等に積極的に参加して多くのことを学ばせるように努めている。

4.3 松下幸之助の一日一話

私は2年半の時間を費やし、松下幸之助の一日一話[3]を通じて松下幸之助の人生哲学と対比させた私の人生哲学を社員全員にメールした。これを通じて、社員の仕事する姿勢に大きな変化が現れた。取引先の評判が大変良く、当社からの営業活動なくして、商談話が取引先や新規の企業からも舞い込んでくるようになった。これは社員の人格向上による結果と解釈した。心の教育がいかに大切かを示す事例である。


●ソフトウェア開発技術者の人材育成 02
<社団法人日本経営工学会 経営システム vol.16 No.5より/20061201>

●ボスからの招待状<B-ingより/20070101>
●目指すは少数精鋭のSE集団。<産経新聞より/20010923>

     
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